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作品について


「表現を追及すればするほど、現実から離れていく」と芸術の世界で、よく言われますが、表現するということは一体どのようなものでしょうか。<芸術だけが、我々が友人に期待して無駄であったもの、恋人に期待して無駄になるであろうところのものを、我々に与えてくれる。芸術によってのみ、我々は自分から脱出し、我々の世界と同じでなく、月世界のと同じように知られないままであるかもしれない風景をもった、別の世界について、他の人が見るものを知ることができる。芸術のおかげで、我々の世界というただ一つの世界だけを見ることなく、我々はその世界の数が増すのを見る。…(『プルーストとシーニュ』P53(法政大学出版局)> このあまりに美しすぎるジル・ドゥルーズのプルーストの書物から引用された言葉は、一体何処へ行こうとしているでしょうか。

 私は、ジル・ドゥルーズの世界が好きです。彼が述べているように、現在の世の中は、人間の作った全てのものには、意味があるにもかかわらず、因果律は希薄になり、歴史の上に立つということも、説得力が低下してきています(かといって、与論調査では、良い芸術は生まれないでしょう)。私は、この宇宙で、人間だけが宙に浮いているというような状態であると考えています。

 そのような中で、私にとって重要な素材の一つに行動の記録があります。人間にとって比較的確信のおけるものは、ナショナリズムでもなく、民族主義でもなく…、私は、個人の行動の記録であると考えています。都会と田舎、日本と海外、男性と女性…などの二項対立から脱出する重要な素材として用いているのです。

  そして、私は行動の記録を公的な場所で発表することが大切であると考えています。私にと ってもっとも難しい問題の一つとなっている「表現する」ということの持っている力を考察しているのです。また、発表することによって、主体と客体といううんざりする二項対立からの脱出も計っているのです。(1996年4月2日)





作品「逃走の線」について…1年間のヨーロッパ絵画留学の体験をもとに日本は湿度が高く絵の具もなかなか乾かないという、日本と西洋との土壌の違いに注目して作品を作りました。絵の具が乾く前に一気に横幅2m以上の筆で上から下に筆を走らせています。そしてあえてどこまでも地平線が続く遠近法の整った風景を選びました。この作品で私は秩序を守りつつもそれを超え、生き生きをした前向きで自由なエネルギーが解き放たれた瞬間を表現できればと願っています。(2005年1月、兵庫国際絵画コンペティションカタログより)
        


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